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The History and Future

04 原子力船「むつ」の挑戦と教訓及び特殊船建造技術

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原子力船「むつ」の挑戦と教訓

原子力船「むつ」概要

1968年 起工
1969年 進水
1974年 出力上昇試験(洋上)⇒放射線漏れ
1980年 佐世保で放射線遮蔽改修工事
1988年 むつ市関根浜港(新定係港)で活動再開
1991年 実験航海開始 100%負荷 (振動・動揺・負荷変動が原子炉に与える影響を調査)
1992年 実験終了
1995年 地球海洋研究船「みらい」に改造
基本情報
船種 実験船(特殊輸送船)
船籍 日本
所有者 日本原子力船開発事業団
運用者 日本原子力船開発事業団
建造所 石川島播磨重工業東京第2工場
母港 むつ市大湊港→むつ市関根浜港
建造費 約64億円
航行区域 遠洋区域(国際航海)
船級 JG
船舶番号 114714
信号符字 JNSR
IMO番号 114714
MMSI番号 6919423
経歴
発注 日本原子力船開発事業団
起工 1968年11月27日
進水 1969年6月12日
竣工 1972年8月25日
その後 1993年3月 原子炉を撤去
1996年8月21日 みらいとして進水
要目
総トン数 8,242 トン
全長 130.46 m
最大幅 19.0 m
深さ 13.2 m
喫水 6.9 m
ボイラー 1基
主機関 加圧軽水冷却型原子炉 1基
蒸気タービン 1基
出力 36,000 kW
10,000馬力
最大速力 17.7ノット
航続距離 145,000海里(計画)
乗組員 80名

注)出典は、国立研究開発法人日本原子力開発機構、青森研究開発センター等のホームページ

1960年代、日本は将来のエネルギー確保と先進技術の習得を目的に、世界でも珍しい原子力船「むつ」の建造に乗り出しました。1969年に進水した「むつ」は、日本初の原子力推進船として注目を集めました。しかしながら、運用開始後に放射線漏れが発覚し、国内の反発や港湾での受け入れ拒否が相次ぎました。1980年代に入ってからは事実上の航行停止となり、1992年に廃船が決定されました。

  • 1974年、洋上での原子炉出力上昇試験中(出力1.4%時)に微量の「放射線漏れ」が発生
    
「放射線漏れ」は、構造的にしっかり遮蔽すれば防止可能
    
放射性物質が炉外に漏れだす「放射能漏れ」とは根本的に異なる。
    
マスコミが「放射能漏れ」と報じたため大騒ぎになった。
  • 政府主導による調査委員会による調査⇒技術的に見て「むつ」はかなりの水準
    
適切な改修で、初期の目的は達成可能と判断された。
    
背景には、日本のエネルギー政策上「むつ」の研究開発成果が必要との情勢
  • 1982年、改修工事終了、1983年、国会議員で構成する「原子力船を考える会」が発足
    
⇒財政難の中、「長期間を要する先の見えない研究開発の継続」に疑義が呈された。
  • それでも1990年から各種試験開始⇒1991年には原子炉出力100%に到達
  • 太平洋における複数回の実験航海にて、約82千km、地球2周半の距離を安全に航行
  • 1992年実験航海終了後、関根浜港において役目を解くこととなった。

詳細経緯は、上述のとおりですが、微量の放射線漏れが過激に報じられ、実験航海まで多大な年月を要しましたが、「国産技術で建造された日本初の原子力船で貴重なデータを十分に取得し、原子力船を安全に運航できることを実証した」というのが正当な評価です。要約すると、「むつ」の技術開発において得られた成果は、放射線遮蔽技術、船体振動抑制設計、原子力安全管理ノウハウなど、後の原子力・防衛技術分野への応用に大きく貢献したことも見逃せず、この経験は、「革新技術への挑戦には国家的支援と国民的理解が不可欠」であることを示しています。

特殊船技術の継承と日本の誇り

日本が手がけた世界的に高度な技術力を有する特殊船は、有人深海探査船「しんかい6500」、地球深部探査船「ちきゅう」、南極観測船「しらせ」などが代表例です。これらは、設計から建造・運用までの総合技術力を要し、日本が有する“積み上げ型技術”の象徴です。
「ちきゅう」は、水深7,000m以上の海底掘削を可能にする技術を保有し、世界で唯一、マントル層へ到達可能な掘削能力を持つ船です。これらの特殊船は、数年〜10年単位での一品受注が主であり、連続生産性がありません。そのため若手技術者への技術継承機会が少なく、又、特殊部品製造メーカーの減少や廃業等、「特殊船建造の技術伝承が途絶えかねないという構造的問題」を抱えております。
更に、こうした特殊船の建造は、設計~調達~建造~試験~運用までを一貫して行える“横断的設計力”と“先進的なリスク設計能力”が必要ですが、これらを維持する組織的基盤が現在失われつつあります。
このような特殊かつ高度な技術の基盤維持に関しては、(次章の経済安全保障の観点からも)国が中心となって政策を考える立場と認識しており、その技術共創基盤整備に関しては、GSCも協力していきたいと考えております。

特殊船の設計・建造に必要な高度船舶技術

  1. 特殊戦の設計・建造には、当時の最先端技術を活用
    目的・環境に応じた設計 ⇒ 旧大手で蓄積した研究開発データと経験を反映
  2. 現状、造船業界が様々な課題に直面 ⇒ 日本での特殊戦建造技術の維持が至難
特殊船 建造背景 時期
造船所
主な高度技術
原子力船
「むつ」
海上輸送分野での原子力活用 1974年
IHI東京第2
小型原子炉設計、多重防御設計、冷却システム、自律運航技術
有人潜水調査船
しんかい6500
深海探査能力の向上 1989年
三菱神戸
耐圧構造設計(チタン合金)、潜航制御技術、高性能センサー、カメラ等
海洋地球研究船
「みらい」
むつ改造
地球規模の気候変動や海洋環境の研究 1996年
IHI東京1
三菱下関
低振動・低騒音設計、気象観測技術、長期航行技術(燃費、エンジン)
地球深部探査船
「ちきゅう」
地球の内部構造やプレートテクトニクス解明 2005年
三井玉野
三菱長崎
自動船位保持装置(DPS)、超深海掘削技術、耐環境(深海)設計
砕氷艦
「しらせ」
南極観測隊の支援と物資輸送 2009年
USC舞鶴
砕氷性能設計、極寒耐久技術(高強度鋼材、断熱設計)、耐環境エンジン

注)本稿は、原子力船「むつ」については、原子力委員会の「むつ放射線漏れ問題調査報告書」を参考にし、特殊船については、歴史的事実、報道、政府資料、専門技術書等複数の公的文献やメディア情報に基づきGSCで要約・再構成した。

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