Toward Net-zero
2018年の国際海運に従事する船舶からのGHG排出量はCO2換算で約9.2億トン*であり、これは世界の全GHG排出量の2.51%に相当し、ドイツの排出量をやや上回る量になります。

グローバル経済の発展を支えるため、原材料、製品ともに海上輸送量は増加し続けている一方で、技術開発や経済速度運航等により、個船のCO2排出効率(トンマイル当たりの燃料消費量)は大幅に改善されているため、CO2排出量は2008年以降横ばいとなっておりますが、2050ネットゼロに向け、ゼロ/低炭素の新燃料への切り換えなど抜本的な排出削減が喫緊の課題となっています。
*:IMO (国際海事機関) のIMO GHG 4th studyより。内航海運に従事する船舶からの派出は含まず。
現在、国際的なGHG削減に関する議論は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で行われています。
一方、国際海運は、輸出国や輸入国、船籍国、燃料生産国、燃料供給国など関係国が多岐にわたり、サービスの受益国を特定できないため、国ごとに削減に取り組むUNFCCCのパリ協定およびグラスゴー合意の枠組みで考えることはできません。そのため、国連の専門機関であるIMOに検討が委ねられ、業界一律で対策を検討し、削減に向けて取り組むことになりました。
国際海事機関(IMO)において、遅くとも2050年頃までに国際海運の温室効果ガス(GHG)排出量をネットゼロにするという野心的な目標が2023年に採択されました(下図、青実線)。
この目標達成に向けて、従来の削減目標に加えて、2030年までに最低20%減*1、2040年までに最低70%減*1という中間のGHG排出削減目安が設定され、更に2030年にはGHG排出ゼロに近い新燃料*1*2の使用を世界全体で最低5%とする目標も設定されています。国際海運は2050年頃のネットゼロを目指して急速な対応/変革を必要としています。
*1いずれの新規目標も燃料の製造・貯蔵・輸送工程における排出(WtW排出)を考慮することになっています。
*2風力、陸上電力などの再生可能エネルギーの直接利用を含みます。
これらの削減目標を実現するためには、下図のようにGHG排出を2030年前から急速かつ大幅に削減への対応を開始することが必要で、効率改善だけで無く、GHG排出ゼロに近い新燃料への早急な転換が求められています。

ゼロ/低GHG排出燃料としては水素、アンモニア、合成燃料など様々な燃料がありますが、船舶においては燃料タンクの体積や船上での取り扱いの容易性などを考慮して船種や航路に応じた最適な燃料を選択していくことが重要です。
特に長距離を航行する国際海運においては燃料の体積が設計や積載能力に大きく影響します。

ゼロ/低 GHG排出燃料の入手コスト(各燃料の製造・貯蔵・輸送コストの合計)や供給量拡大の見通しとしては、ブルーアンモニアが比較的安価な上、窒素の入手性や製造技術面からスケールアップが容易なことから、国際海運の燃料の主力になるのではないかと期待されています。
また、合成燃料の1種であるe-メタノール(バイオ由来のCO2を原料とする)も舶用燃料として最近注目を集めています。

規制動向や新燃料の展望などを踏まえると、外航海運分野においては2030年代後半以降アンモニアやメタノールなどを中心としたゼロGHG排出燃料への転換が急速に進むと期待されますが、現時点で決定打はなく、複数の燃料の可能性を想定した対策が有効と考えられます。
このような燃料転換シナリオを想定し、GSCは「2050ネットゼロ」に(向かうトランジション期を通じて競争力をもつ)向けて、アンモニアやメタノールを中心とした複数のゼロGHG排出燃料による船舶のコンセプトを開発しています。

GSCは、日本で初めてアンモニア燃料パナマックスバルクキャリアの基本設計を開発し、基本設計承認を取得しました。本設計はGSC開発の第1号となります。
アンモニア燃料タンクは重油タンクに比べて約2.7倍もの容積が必要ですが、斬新な居住区・燃料タンク配置の採用等により、現在の重油焚パナマックスバルクキャリアと比較して、貨物積載量は同等レベルを維持し、さらにこのタイプの船舶として運航上十分な航続距離を確保しています。
同時に、緊急時にはアンモニア燃料タンク近傍を通らずに救命艇までアクセスできるなど乗員の安全・安心にも配慮しています。

国際海運2050年ネットゼロに向け、昨今注目されているメタノールを燃料としたバルクキャリアの基本設計を実施しました。
このメタノール燃料船は、既に開発済みのアンモニア燃料船の設計をベースとしています。燃料タンク、主機、補機、そして燃料供給システムをメタノールに対応させることで、基本的なデザインを共通化しました。
さらに、この共通性を活かし、重油燃料(HFO)船として就航し、将来的には代替燃料としてメタノールあるいはアンモニアの使用を想定した「Ready仕様」も可能です。
