The History and Future
日本の対応遅れ
| 韓国 | 中国 | 日本 | 世界全体 | |
|---|---|---|---|---|
| 2010年〜2012年 | 35 | 40 | 20 | 100〜110 |
| 2015年〜2017年 | 26 | 33 | 15 | 77〜85 |
| 2022年〜2023年 | 24 | 31 | 12 | 74〜76 |
中国は現状45百万GTまで拡大(推定)
| 韓国 | 中国 | 日本 |
|---|---|---|
| 3,787(24%) | 9,116(58%) [GTからの推定値] |
1,377(8.8%) [約3.3年分] |
注)1.GTは、船の内部容積を表すトン数(m3ベース),CGTは、船舶の建造作業量の指標(建造難易度を加味した単位)
2.上記数値は、日本海事新聞・海事プレス等のニュースや中国船舶工業協会(CANSI)の報告書等から推定してGSCで整理。
(1)1990年代以降、世界の造船市場はグローバル競争の時代へと突入し、特に韓国と中国が国家戦略として造船産業を育成・支援する政策を強化しました。韓国は1980年代後半から、造船を基幹輸出産業と位置づけ、政府主導の政策金融、公的造船金融機関の整備、税制優遇措置、人材育成プログラムの展開など多層的な支援を展開。1999年には日本を抜き、世界の竣工量で首位に立ちました。
(2)続く中国も、2000年代に入り大型インフラ投資や低廉な労働力、さらには国有造船企業グループ(CSSC、CSIC)の再編統合を通じて、建造能力の飛躍的な増強を実現。2010年には世界シェア首位に浮上しました。特に現在では、アンモニア・メタノール・LNGなどの新燃料船において、韓国・中国が政策的な価格支援(例:船価の10%補助)や国家主導によるサプライチェーン整備などを背景に、世界の新造船契約の約90%を占める状況にあります。
一方の日本では、長らく蓄積してきた設計・建造技術と、熟練した人材に支えられた高品質造船が強みとされてきました。しかし、2000年代以降、グローバルな価格競争が激化する中で、以下のような課題に直面してきました。
円高局面が続いたこともあり、為替面での価格競争力に乏しく、特に大量受注を必要とするコンテナ船やバルクキャリア等で苦戦。
少子高齢化に伴う人材不足と人件費の上昇により、コスト構造に硬直性が生じた。
ゼロエミ対応やGHG削減要件に対応するための新設備・設計ノウハウの習得には時間と資金を要し、一部企業は対応に遅れをとった。
業界再編に一定の進展は見られたものの、造船所間の連携や技術共有は限定的で、スケールメリットを十分に発揮できなかった。
こうした環境変化に対して、直近の10年~20年間で日本の造船業界は段階的に統合再編を進めました。具体的には
・三菱重工は、三井E&S社から艦艇事業を承継し、商船分野を分社化(三菱造船)し、同社は、エンジニアリング事業に軸足を移し、他社造船会社の設計支援、海洋インフラ・機器分野等での事業展開にシフトするとともに、香焼工場は、大島造船に承継し、工場での建造規模を縮小致しました。(下関工場は保有)
・三井E&S造船(商船分野)は、ファブレス志向で、エンジニアリング事業へ軸足を移したものの現在、商船分野すべてを常石造船に株式譲渡しております。(造船分野から撤退)
・IHI・日本鋼管・日立造船・住友重機(艦艇部門)は、造船部門を切り離し、再編の過程を経て、2013年に、ジャパンマリンユナイテッド(株)を発足させ、国内造船所での建造維持や雇用確保に務めました。[2002年に、IHI、住友重機(艦艇部門)は、造船分野を分離統合し、(株)IHIマリンユナイテッドを設立、同年に日本鋼管と日立造船は造船事業を分離し、営業譲渡でユニバーサル造船(株)を設立]
・川崎重工業は、2000年頃から中国造船所とのアライアンス提携を進め、自社ヤード建造規模を縮小してきました。
・2021年には今治造船とジャパン マリンユナイテッド(JMU)による資本・業務提携が進展し、営業・設計部門を共同で運営する「日本シップヤード(NSY)」が設立され、スケール化による対応力の強化が図られました。
・大島造船所・常石造船・尾道造船所・名村造船所などは、コスト競争力や多品種少量対応の柔軟性を武器に、生き残りを図る戦略を展開しています。
これまで日本国の制度的支援は、安全・環境規制対応や研究助成を中心とした間接的支援が中心で、韓国・中国のような直接的な価格補助政策とは異なるスタイルを採ってきました。これは、国内の産業政策全体のバランスを取る中で、特定産業に対する補助に慎重な姿勢を持つ国の財政方針も背景にあります。
しかし、国際競争環境の変化、脱炭素社会への移行という構造的転換期にあって、従来の枠組みにとらわれない「官民連携・産業横断型の共創モデル(例:ALL JAPAN体制)」の構築が急務です。単なる造船業の再活性化ではなく、「海事産業全体の競争力再構築」に向けた統合的なビジョンが今、求められています。
注)本稿は、日本海事新聞・海事プレスや造船関連のニュース、国土交通省や関連業界の様々なニュース情報を参考に、GSCが独自に整理・要約したもの。