2023.08.15
(一財)次世代環境船舶開発センター(Planning and Design Center for Greener Ships、略称GSC)は、2023年7月28日(金)に第8回GSCセミナー -どうするゼロエミ-を開催いたしました。
今回のセミナーでは、GSCの最新の研究成果のご報告とともに、ゼロエミッションに向け、これからどうしていくのか、セミナー参加者の皆さまと一緒に考える機会を提供させていただきたいとの趣旨より、「これからどうするゼロエミッション」、「EUやIMOの動き -経済的手法を中心に-」および「ゼロエミッションに向けた環境船舶の開発」の計3件の講演を実施し、来場参加者・オンライン参加者延べ約500名のご参加をいただきました。
ご参加いただいた皆さまに心より感謝申し上げます。ありがとうございます。
GSCでは、今後も年に1~2回程度、セミナーを開催していきたいと考えております。テーマや日程など決まりましたら、ホームページなどでお知らせいたします。
なお、時間の都合上、当日すべてのご質問にお答えすることができませんでした。その場でお答えできたものも含め、以下に回答を掲載いたします。
【講演1:これからどうするゼロエミッション】
〇ご質問
資料8Pの代替燃料のセクター別における2010-2050のCO2排出量予想のグラフについて、Electricityで CO2排出量が一番早く削減できる理由は何か。
〇回答
資料8ページのグラフの出典は、IEAのWorld Energy Outlook 2022です。
IEAでは、2050年に温室効果ガス(GHG)のゼロ排出となるシナリオを検討しておりまして、その結果がスライド8ページで引用したグラフとなります。
他のセクターに比べて電力セクター(Electricity Sector)の排出削減早くなっている理由は、技術的に習熟されている風力発電と太陽光発電が急速に普及するからです。両電力源によるCO2削減の寄与は、2021年に10%、2030年に40%、2050年では70%と予測しています。
一方、他のセクターでは、例えば運輸セクターでは、船や飛行機は、燃料を消費せざるを得ないため、GHGを排出しない燃料を供給できるようになるには、時間がかかるとみています。
〇ご質問
様々な代替燃料について、港湾の動向をみるという話があったが、アンモニアのバンカリングが危険だという話もあるように、国際的な燃料の安全基準がどのタイミングで決まるかによって、燃料の導入スケジュールが決まってくると考えられる。上記の安全基準等の情報について、GSCでは今後どのように調査を行っていくか?
〇回答
GSCでは、今年度、アンモニア燃料船に関するリスク(ハザード)項目の洗い出し(HAZID:Hazard Identification Study)を実施します。この安全性評価手法を用いて、アンモニア燃料のバンカリングにおけるリスクについて、まず、基本的な知見を蓄える所存です。
アンモニア燃料に関する基準化の動きについては、IMOの海上安全委員会(MSC:Maritime Safety Committee)での議論を注視していきます。
【EUやIMOの動き -経済的手法を中心に-】
〇ご質問
米国で提出された規制について、課金額が今後増えていくのか、又は入港規制の様な別の規制が上乗せされていくのかについてGSCではどのように考えているか。
また、米国が徴収した課金を自国のインフラに回すことを想定しているが、EU等も追随すると考えているか。
〇回答
米国の規制については上院に提出されたばかりであり全く不明。バラスト水の米国独自規制の歴史的経緯を考慮すると、①廃案になる、②廃案になるがカルフォルニア州などが州レベルでの同等の規制を適用する、③IMOにて同等の経済的手法が採用されることを確認し廃案とする、④ご指摘のように各国、各地域における地域規制が乱立する、その中で課金率が上昇していく、のいずれも現時点はあり得る。もちろんIMOは地域規制の乱立を避けるべきとの立場から、経済的な手法の早期導入を目指しており、現在のスケジュールでは最短で2025年5月の発効を目指している。
〇ご質問
2019年以降にCIIの大きな改善がなかったことについてはCOVIDによるコンテナ船のブームが原因と考えており、また、バルクキャリアにおいても、船員交代の為にデビエーションが発生する等、滞船があったと考える。
〇回答
ご指摘のとおり、ここ数年のCIIの数値にはCOVID-19の影響が多かれ少なかれあったと考えられ、特にコンテナ船の運航には影響が大きかったのであろう。ただし、陸上の各国の削減目標も、COVID-19を考慮して見直されており、その意味ではたとえCOVID-19の影響によるCIIの改善に停滞があったとしても、2030年の40%改善目標を達成することに変更はなく、これを今回の削減戦略は確認したと理解している。
〇ご質問
WtW燃料GHG密度においてバイオ燃料の閾値を対重油Δ65%とするとの説明があったが、LNGでは何%程度になるか。
また、2030年削減目標達成の条件としては半数をバイオ燃料相当にしないと達成できないという理解で良いか。2030年まで残り年数を考えると、仮に安い燃料が供給されるとしても物理的な問題があり、課金するだけになってしまうのではないかと考えている。
〇回答
TtWにおけるメタンスリップだけでなく、WtTの採掘時におけるガス田からのメタン漏洩を考えると、排出幅が10%より少ないこと(つまり対重油で90%のWtW排出量)も考えられる。実際に欧州の一部の国は同ガイドラインを検討するCGにそのようなデータを提出していた。
このため、2030年の総量目標達成のためには、LNG焚き既存船を含めてバイオ燃料相当、すなわちΔ65%程度の燃料を約半分混焼しないと達成できない厳しい目標と理解している。この目標達成には、充分量の代替燃料の供給側が必要となる。これが2030年においては、地域港湾においては充分に供給出来ない可能性も充分にある。ただし、経済的手法によって得られる資金が、舶用燃料のための生産供給インフラに対して使われるのであれば、2030年は達成困難であっても、2035年以降の供給基盤が整備されることに繋がると考えられるので、「課金されるだけ」という状況にはならないと理解している。
〇ご質問
2030年規制は現実不可能としか思えないのですが、MEPCで目標そのものを緩める方向にならないのでしょうか?
〇回答
今回のIMOのGHG削減目標はUNFCCCがグラスゴー合意で目指している1.5℃目標の削減幅に準拠しており、日本などの先進国や島嶼国だけでなく、一部の船籍国も同様の目標に向かって進んでいる。外航海運、国際空輸および陸上のトラック長距離輸送など一部のGHGを削減しにくいセクターに対して、1.5℃目標に完全に沿う必要が無い、と言った猶予をUNFCCCにおいて合意することは必要になるのではないか?このため、IMO単独で目標を緩めるという方向は考えにくい。
〇ご質問
今回のバイオ燃料の議論を伺う限り、IMOでは燃焼時のみのGHG排出に焦点が当てられている一方、EUではライフサイクル全体でのGHG排出を想定しているように考えられます。この理解で正しいでしょうか。もしこの理解で正しいのであれば、今後どちらに追従していくのかについて、ご見解を伺えられればと思います。
〇回答
IMOのEEDI/EEXIおよびCIIは燃焼時のCO2排出量が規制対象であり、EU-ETSは燃焼時のGHG排出量のみを対象としている。
対して今回採択された2023 IMO削減戦略においては、ライフサイクル全体のGHG排出を考慮することが明記されており、今後のIMO規制およびEUの今後の地域規制はライフサイクル全体の排出量を対象にしていく方向に進むと考えている。この方向性の中でライフサイクルガイドラインは、ライフサイクル全体の排出量の計算方法およびデフォルト値を定めようとしている。
【講演3:ゼロエミッションに向けた環境船舶の開発】
〇ご質問
代替燃料船の計画において、発電用の補機エンジンについても燃料転換する考えなのか。又は燃料性状に合わせて対応するつもりなのか。
〇回答
最終的にはゼロエミッションを目指す為、pilot fuel を含めたカーボンニュートラル化が必要と考えております。その点補機エンジンも燃料転換が必要と考えますが、一方例えば未だ開発課題の多いアンモニア燃料を使用する船舶の商談も動いており、それらに対応する仕様を纏める必要もあります。従い理想的にゼロエミッションを目指す仕様と、現時点で使用可能な技術、機器を組み合わせて目先の商談に対応していく仕様の2つに取り組む方針としております。
〇ご質問
推進プラントシステムのパッケージ化について、GSCが推進インテグレーションを造船所に提供するのか、主機メーカーの所掌でパッケージ化されるのか、GSCとしてはどの様に考えているか。
〇回答
GSCとしては代替燃料を使用した場合、従来のHFO焚船の推進システムに比べどの様な機器が追加され、どの様な機器構成が効率的、経済的なのかをひな形的なパッケージとして纏めようとしております。内容的には設計、仕様に関する物であり、個々の機器の所掌分担決定とか、インテグレーション自体をGSCが担当することは考えておりません。
〇ご質問
アンモニア燃料船における貨物積載効率が10%程度悪化するとの説明があったが、LNG Dual Fuel船や、メタノールDual Fuel船、水素燃料船等についての同様の数字を計算されているか。
〇回答
アンモニア燃料船で貨物積載容積が10%程度減少するとご説明したのは、タンクと居住区をできるだけ離す為、船首居住区を採用した場合です。アンモニア燃料でも船尾居住区の場合はその様な大幅な貨物積載減少は起こらず、LNG燃料やメタノール燃料でも同様です。
水素燃料の場合は検討しておりませんが、熱量あたりの必要容積は他燃料に比べ非常に大きくなるため、どの程度の航続距離を確保したいかに影響されると考えます。
以上